
みなさんは「漢服(かんふく)」という言葉を聞いたことがありますか?近年、中国やアジア圏の若者の間で大きなブームとなっている伝統衣装で、SNSや街中、大学のキャンパスでも見かけることが増えてきました。日本では「チャイナドレス」のイメージが強い人も多いと思いますが、実は漢服はそれとは別の、もっと奥深い歴史を持った衣装です。今回は、国際文化に興味のある高校生や留学生のみなさんに向けて、「漢服ってどんな服?なぜ今人気なの?」をわかりやすく紹介します。
■ 漢服とは?
漢服は、一言でいえば「漢民族の伝統衣装」。紀元前から清朝が成立する17世紀頃まで、数千年にわたり着られてきた服の総称です。特徴は、左右対称のゆったりとしたデザイン、帯でととのえる着方、そして自然の流れを感じさせるシルエット。日本の着物にも通じる要素がありますが、漢服はもっと種類が多く、時代や用途によってデザインが全く異なる点がユニークです。
たとえば、魏晋南北朝時代には「深衣(しんい)」と呼ばれる落ち着いた形が主流で、唐代に入ると華やかな色彩と大胆な柄が流行します。宋代はシンプルで上品な美しさが重視され、明代には現代の漢服ブームでも人気の「対襟」「馬面裙(ばめんくん)」などのスタイルが登場します。まさに歴史そのものがファッションとして受け継がれているのが漢服の魅力です。
◆ 各時代の漢服はどんなデザイン?
漢服は2,000年以上の歴史を持つため、時代ごとに形や色づかいが大きく異なります。ここでは代表的な4時代の漢服を、イラストとともに紹介します。
1. 漢代(Han)— シンプルで落ち着いた造形

漢代の漢服は、直線的で落ち着いた色合いが特徴です。
上着は「深衣(しんい)」と呼ばれ、体に沿ってゆったりとしたラインを描きます。
実用性が重視され、装飾は比較的控えめ。知的で素朴な印象のスタイルです。
2. 唐代(Tang)— 華やかで大胆、女性美が開花した時代

唐代の漢服といえば、明るい色使いと広い袖、そしてふんわり広がったスカート。
胸の下で切り替えるハイウエストのデザインが流行し、豊かなシルエットが美とされました。
色彩豊かで、当時の繁栄と国際性を象徴する華やかなファッションです。
3. 宋代(Song)— シンプルで優雅、知的な雰囲気

宋代は清楚で整った印象の服装が特徴。
白×青など淡い色が人気で、控えめな美しさが好まれました。身幅もコンパクトで、明確な“品の良さ”が感じられるスタイルです。
4. 明代(Ming)— 端正でメリハリのあるデザイン

明代の漢服は、現在の漢服ブームでも特に人気があります。
上着はクロス襟、スカートは「馬面裙(ばめんくん)」と呼ばれるプリーツの入ったデザイン。
配色のコントラストがはっきりして、凛とした美しさが魅力です。
■ なぜ今、若者の間で漢服が人気なの?
中国では2010年代後半から、Z世代を中心に漢服が一大ムーブメントになっています。その背景には、いくつかの理由があります。
● ① 伝統文化への新しい関心
中国の若者たちは、急速な現代化の中で「自分たちの文化とは何か」を改めて考えるようになりました。そこで注目され始めたのが漢服です。「昔の服」ではなく「自分たちのルーツを表現するファッション」として受け取られています。
● ② SNSによる拡散
漢服は写真映えするので、TikTokや小紅書(RED)で大人気。「漢服チャレンジ」や「古風メイク」など、多くのコンテンツが生まれ、若者が手軽に楽しめる文化になりました。
● ③ 日常にも取り入れられる“普段着漢服”の登場
最近では、現代風にアレンジされた「改良漢服」も増えています。スカートだけ漢服風にしたり、トップスをシャツと合わせたり、普段着にも取り入れやすいスタイルが展開され、敷居が低くなりました。
■ 漢服を着る場面は?
「伝統衣装」と聞くと特別な日だけのイメージですが、現代の漢服はもっと自由です。
● 祭りやイベント
中国の祭り、大学の国際交流イベント、コスプレフェスなどでよく着られています。桜や紅葉の季節に漢服で写真を撮る若者も多く見られます。
● 日常のおしゃれとして
“普段着漢服”は、ワンピース感覚で着られるため、買い物やカフェなど日常でも楽しめます。
● 伝統行事や儀式
成人式、結婚式、卒業写真など、大切な人生の節目に漢服を選ぶ若者も増えています。
■ 日本の着物との共通点と違い
漢服と着物は、どちらも左右対象で、直線的な裁断を用いるという共通点があります。しかし、着物は体に巻きつけて帯で固定するのに対し、漢服は上着とスカートを組み合わせるパターンが多く、より動きやすく軽やかな印象があります。また、着物は季節の模様や礼装のルールが明確ですが、漢服は種類が非常に多く、同じ時代でも地域によってスタイルが変わるほど多様です。
この違いを知ると、文化の発展の仕方や美意識の違いが感じられて興味深いですよね。
■ 漢服を着てみたい!どうやって始める?
もし「漢服を着てみたい!」と思ったら、次の方法があります。
- ネット通販で購入する:Taobao、AliExpressなどに多く出品されています。
- レンタルスタジオを利用する:東京・神奈川・大阪などに漢服のレンタル+撮影ができるスタジオがあります。
- イベントに参加する:漢服愛好家のコミュニティがイベントを開催していることもあります。
最初は明代風や宋代風の、シンプルで着やすいデザインが初心者におすすめです。
■ まとめ
漢服は、ただの「古い服」ではなく、数千年の文化と美意識が詰まったファッションです。そして現代の若者が自由に取り入れて楽しんでいる、非常に“生きた文化”でもあります。日本にいる私たちにとっても、漢服は中国の歴史や価値観を知る入口として、とても魅力的な存在です。
今後、SNSや街で漢服を見かけたら、ぜひ「どの時代のスタイルかな?」と想像しながら眺めてみてください。文化の多様性を感じる、素敵なきっかけになるはずです。
