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『ズートピア』は中国語で何と呼ばれている?

― 中国大陸・台湾・香港、それぞれの名前から見る中国語の多様さ ―

ディズニー映画『ズートピア』(原題:Zootopia)は、日本でも多くの人に親しまれている作品です。
実はこの映画、中国語では地域によって異なるタイトルが使われています。

同じ映画、同じ中国語圏。
それでも名前が変わるのは、中国語が一つの形に固定された言語ではなく、
地域ごとに表現の好みや語感が異なるからです。

映画タイトルは、その違いが最も分かりやすく表れる存在の一つ。
ここでは、中国大陸・台湾・香港で使われている『ズートピア』の中国語名を見ながら、
中国語の表現の幅広さを味わってみたいと思います。

中国大陸《疯狂动物城》

『ズートピア』の原題 Zootopia は、
Zoo(動物園)+ Utopia(理想郷) を組み合わせた造語です。

中国語にも、Utopia に対応する言葉として
「乌托邦(wū tuō bāng)」 があります。
そのため、中国語学習者の中には
「なぜ《动物乌托邦》と訳さなかったのだろう?」
と疑問に思う人もいるかもしれません。

結論から言うと、意味が分からないからではなく、
中国語の語感として「乌托邦」が映画タイトルにあまり向いていない
という理由が大きいと考えられます。

中国語の「乌托邦」は、

  • 哲学・思想・文学評論などで使われることが多い
  • 抽象度が高く、概念的な響きが強い
  • 日常会話や娯楽作品ではあまり登場しない

といった特徴を持つ言葉です。
そのため《动物乌托邦》とすると、意味は通じるものの、
やや説明的で、映像作品としての楽しさや動きが伝わりにくくなります。

そこで中国大陸版では、「乌托邦」という概念語を使わず、
具体的で感覚的な言葉によって世界観を表現する方法が選ばれました。

《疯狂动物城》の「疯狂」は、現代中国語では必ずしも否定的な意味ではありません。
日常語では、次のようなニュアンスでよく使われます。

  • 情绪被释放(感情が解放される)
  • 不受拘束(束縛されない)
  • 全情投入(全力で打ち込む)
  • 尽情表现自我(思いきり自分を表現する)

例えば、

  • 疯狂一次吧!
    → 一度くらい思いきりやってみよう
  • 年轻就该疯狂一点
    → 若いなら、少しは自由に生きてみよう

このような使い方では、「疯狂」は
抑圧から解き放たれ、エネルギーを外に出す状態
を表す、ポジティブな言葉です。

《疯狂动物城》というタイトルも、
「動物たちが自分の個性や本性を隠さずに生きられる都市」
という作品世界を、抽象語に頼らず、直感的に伝える表現だと捉えることができます。

台湾《動物方城市》

日本語訳(意訳):「動物たちの秩序ある都市」

台湾で使われているタイトルは《動物方城市》。
中国大陸版と比べると、落ち着いた印象を受ける名前です。

「方城市」の「方」は、
「方程式(数式)」を連想させることもありますが、ここでは数学的な意味ではありません。

中国語ではこの「方」に、

  • 整っている
  • 区画化されている
  • 構造を持っている

といった意味があります。

《動物方城市》は、
「ルールや秩序の中で動物たちが共存する都市」
というイメージを、漢字で丁寧に表現したタイトルだと言えるでしょう。

原題 Zootopia が持つ
「理想的に設計された社会」という側面を、
意味重視で表現している点が印象的です。

香港《優獸大都會》

日本語訳(意訳):「優れた獣たちの大都会」

香港で使われているタイトルは《優獸大都會》。
三つの中でも、特に言葉の工夫が感じられる名前です。

「優獸」は、

  • 「優秀」の「優」
  • 「野獸(動物)」の「獸」

を組み合わせた表現です。

広東語では、

  • 優秀:jau1 sau3
  • 優獸:jau1 sau3

と、ほぼ同じ発音になります。
意味としては「動物」、音としては「優秀」に重なる、
さりげない言葉遊びが込められています。

音の響きや語感を楽しむ表現は、広東語文化ではよく見られ、
「大都會」という言葉とも相まって、洗練された印象を与えます。

同じ映画、違う名前。だからこそ広がる楽しみ

三つのタイトルを並べてみると、

  • 勢いと分かりやすさ
  • 意味を整理した表現
  • 音と意味を重ねた言葉遊び

と、それぞれ異なる方向性が見えてきます。

これは優劣の話ではなく、
「その地域で自然に伝わる中国語」を選んだ結果です。
同じ中国語でも、表現の選び方は一つではありません。

映画タイトルから、中国語の世界へ

映画の中国語名に注目すると、
中国語が持つ柔軟さや、地域ごとの表現感覚が自然と見えてきます。

次に映画を見るとき、
「このタイトル、中国語ではどうなるだろう?」
と少し立ち止まって考えてみるのも、意外と楽しいものです。

そんな小さな気づきが、中国語や中国文化への興味を、
ゆっくりと広げてくれるかもしれません。

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