
2025年5月22日、日本では政府による燃料油定格引き下げ措置が実施されました。
一方で、中国でも同時期に国家発展改革委員会(NDRC)による成品油価格の調整が実施され、全国のガソリン価格が引き下げられました。国際原油価格の下落と国内供給体制の効率化を受け、消費者への負担軽減が図られています。
石油販売の仕組みと価格の決まり方:国営主導 vs 民間競争
中国と日本では、ガソリンの価格や供給の制度に大きな違いがあります。
日本ではENEOSや出光興産といった民間企業が競争的に価格を設定し、ガソリンスタンドごとにサービスや価格が異なります。フランチャイズ展開や地域差も大きく、消費者が選べる自由度が特徴です。
一方、中国では「CNPC(中国石油)」「Sinopec(中国石化)」「CNOOC(中国海洋石油)」の三大国有企業が供給から販売までを垂直統合で統制しています。これらは俗に「三桶油(サントンヨウ)」と呼ばれ、全国に展開するガソリンスタンドの多くも系列直営です。
中国 | 日本 | |
---|---|---|
主要事業者 | 三大国有企業 (CNPC・Sinopec・CNOOC) | 民間企業 (ENEOS・出光・コスモ等) |
価格決定 | 国家が統制(NDRCが調整) | 市場原理+政府補助金 |
スタンド運営 | 国営企業の直営・系列 | フランチャイズ・独立店舗あり |
中国の価格決定プロセス:国家主導の制度メカニズム
中国ではガソリン価格は「国家発展改革委員会(NDRC)」によって管理され、次のようなプロセスで決定されます。
- 価格改定の頻度:月2回(原則として1日と16日)
- 参考価格:直近10営業日のWTI・ブレントなどの国際原油平均価格
- 上下限制御:原油が1バレル40~130米ドルの範囲外に出た場合、調整幅が制限される
- 価格の全国統一性:都市・農村問わず、全国でほぼ同一水準
価格競争よりも供給安定と地域格差の抑制を重視している点が、中国の制度の特徴です。
中国のガソリンの種類と表記:92号ってレギュラー?
中国のガソリンの種類は、日本と同じように「オクタン価」で分類されていますが、日本では「レギュラー」と「ハイオク」の2種類に対して、中国ではオクタン価に基づいて「92号」「95号」「98号」の3種に分類され、数値で表記されます。
- 92号:日本のレギュラー相当
- 95号:日本のハイオク相当
- 98号:高性能車向けの高オクタン燃料
給油時には車両指定に従い、番号で選ぶ点が特徴的です。
中国のガソリン価格の現状(2025年5月20日)
中国の全国平均ガソリン価格について、以下は最新の価格情報です。
種類 | 価格(元/L) | 円換算(約) |
---|
92号 | 6.97元 | 約139円 |
95号 | 7.44元 | 約149円 |
98号 | 8.66元 | 約173円 |
柴油(軽油) | 6.55元 | 約131円 |
1年前には92号ガソリンが8元台だったため、現在の価格は約1年ぶりに6元台へと下落したことになります。`ところで、当時の98号ガソリンは最大に12元(約240円)以上になった場合もあり、インターネット上でガソリン価格の高騰を皮肉するビデオ多く現れた。下記は一例として、夫の車を98号満タンで1800元(約35000円)が請求された奥さんの反応をご覧ください。
EV(電気自動車)普及で加速するエネルギー転換
こうしたガソリン価格の変化と並行して、中国では「そもそもガソリンを使わない社会」への移行=EV化が急速に進んでいます。特に都市部では、EVが新たな「交通の標準」となりつつあり、これまでのガソリンベースのインフラ構造が大きく変わろうとしています。
中国EV市場の全体像(2025年時点)
中国は世界最大の電気自動車市場として、次のような成果を上げています:
- 2024年時点の新車販売の35%超がEV
- EV保有台数:1,800万台超
- 全国の充電設備数:約1374.9万基(うち公共充電器は390万基)
※出典:中国国家能源局(2025年4月28日発表)
政府は「2030年に新車販売の50%以上をEVに」という目標を掲げ、ナンバープレート優遇や補助金制度など多様な政策を導入しています。
🏙️ 深圳市の事例:完全EV化された都市交通
深圳市は、EV化の象徴的都市として世界中から注目されています。
まずバス分野では、2017年に全ての公共バス約1万6,000台をEV化し、世界で初めて「公共バス完全電動化」を実現しました。これはBYDなどの地元企業による技術供給と、中央政府・地方政府による補助金制度によって実現されたものです。
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この変革は単なる車両交換にとどまらず、運行管理・充電体制・整備支援まで含めた交通インフラの総合転換プロジェクトでした。
続いてタクシーも完全電動化が進み、2023年には全体の約99%がEV化されたと報じられています。新規営業許可車両はすべてEV限定で、ガソリン車タクシーは順次退役しています。
さらに、深圳市内には急速充電ステーションやバッテリー交換所が整備され、EVインフラが都市機能と一体化しています。これにより、深圳は交通分野における脱炭素都市モデルとして、国内外の注目を集めています。
留学・ビジネスに役立つ「現地インフラ知識」
中国へ留学する学生や、将来中国市場でビジネスを視野に入れる方にとって、現地の交通やエネルギー制度を知ることは重要な教養のひとつです。ガソリン制度・EV社会・国営と民営の違いなど、こうした知識は語学力だけでなく社会理解・国際感覚の土台となるものです。