中国が2023年3月8日に加盟した「外国公文書の認証を不要とする条約(ハーグ条約)」が2023年11月7日から発効しました。これにより、日本など条約締結国が発行する条約範囲内の公文書を中国へ送付する際、該当書類が発行された国の法務機関などでアポスティーユを取得すれば、従来必要だった中国大使館・総領事館の領事認証は不要となりました。なお、ハーグ条約への加盟に伴い、中国大使館における領事認証業務は停止となっており、今後は領事認証を取得することができなくなりました。では、今後の日中間の留学・ビジネス上の手続きはどのようになるのでしょうか。
ハーグ条約とは
ハーグ条約とは、正式名称を「外国公文書の認証を不要とする条約(The Hague Convention Abolishing the Requirement of Legalization for Foreign Public Documents)」といい、一般的に「ハーグ証明書類の要求を廃止する条約」と呼ばれています。1961年に締結され、加盟国間での公文書の認証手続きを簡略化することを目的としています。この条約に加盟している国々では、公文書に対して「アポスティーユ」という簡易的な認証を付けることで、外国での法的効力が認められ、さらなる認証手続きが不要となります。
アポスティーユとは
アポスティーユとは、ハーグ条約に基づいて発行される公的な認証です。これにより、条約加盟国間では公文書がそのまま有効と認められるため、大使館や領事館での追加的な認証が不要になります。アポスティーユは、該当書類が発行された国の法務機関などで付与され、通常、書類の裏面または添付用紙に証明の印章やシールが貼付されます。
従来の手続きと変化後の手続き
従来、日本の企業が中国でビジネス契約書を提出する場合や、日本人学生が中国で学位証明書などの公文書を使う場合、以下の手順が必要でした。
- 公証役場での公証:まず、日本国内で書類を公証役場に持ち込み、認証を受ける
- 外務省での認証:その後、外務省においても認証を取得する
- 中国大使館・領事館での認証:最終的に、中国大使館または領事館に持ち込み、書類を認証する
この手続きには数週間かかることも多く、各段階で費用が発生するため、時間やコストの負担が大きいものでした。
2023年11月から、中国がハーグ条約に加盟したことにより、日本で発行された公文書にアポスティーユを付与するだけで中国側の認証が不要となります。これにより、上記の手順が大幅に簡略化され、以下のような手続きが可能になります。
- 日本でのアポスティーユ取得のみ:書類発行国(この場合は日本)の法務局や外務省でアポスティーユを取得するだけで、書類がそのまま中国で有効となります。
例えば、日本人学生が中国の大学に留学申請を行う際、卒業証明書にアポスティーユを付けることで、中国国内の追加認証を行うことなく、迅速に手続きが進められるようになります。また、日本企業が中国での登記手続きや契約を結ぶ際にも、アポスティーユを取得するだけで即座に契約書が認められるようになり、ビジネスにおける時間とコストの大幅な削減が期待できます。
注意点
アポスティーユ対応の確認
ハーグ条約加盟国間での書類認証手続きが簡略化されますが、各書類のアポスティーユ取得はその国ごとの法務機関で行う必要があります。また、特定の書類は依然として別の認証を求められる場合もあるため、事前に対象となる書類がアポスティーユで対応可能か確認することが大切です。
規定や制度の周知不足
新たに導入されるアポスティーユ制度について、当初は制度自体が周知されていない場合もあり、現地の役所や教育機関で対応が遅れる可能性があります。特に地方の機関では認知が進んでいない場合も考えられるため、書類の提出先に事前に制度について問い合わせを行うと良いでしょう。
必要書類の再確認
特定の書類によっては、依然として翻訳や追加の認証を求められる場合があります。例えば、ビジネス契約書の一部や、医療関連の証明書など、内容が専門的な書類では追加手続きが必要となるケースもあるため、各機関に提出する前に確認を行うことが重要です。
まとめ
中国と日本の間でハーグ条約が発効したことで、両国間の公文書の認証は簡素化になり、留学予定の方や日中ビジネスに従事する方にとっては有利な面もあるだろう。一方、発効してまだ1年しか経過していないため、中国国内の対応整備が追い付いていない可能性が考えられる。アポスティーユ認証の書類で受理されるかどうかについて、提出先へ事前確認を実施するのが好ましいと考えられます。
参考
・外務省
「公印確認・アポスティーユとは」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000548.html
・中華人民共和国駐日本大使館
中国の<外国公文書の認証を不要とする条約>締約に伴う大使館における領事認証業務停止のお知らせ
http://jp.china-embassy.gov.cn/jpn/tztg/202310/t20231024_11167061.htm